大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1684号 判決 1997年3月25日
原告
壽﨑鶴美
ほか二名
被告
原田幸茂
主文
一 被告は、原告壽﨑鶴美に対し、金二〇九〇万円及びこれに対する平成七年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告徐章雲及び原告徐章庸に対し、各金一五五二万九六五三円及びこれに対する平成七年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
(甲事件)
被告は、原告壽﨑鶴美に対し、金三一七八万四五九五円及びこれに対する平成七年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
被告は、原告徐章雲及び原告徐章庸に対し、各金三六七二万〇九三一円及びこれに対する平成七年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告運転の普通乗用自動車が利川福雄こと徐昌珍(以下「福雄」という。)を跳ねて死亡させた事故に関し、福雄の内妻(甲事件)と子ら(乙事件)が、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 平成七年六月一七日午前一時ころ
(二) 場所 大分県別府市上田の湯町一六番二八号ホテル白菊先路上(以下「本件現場」という。)
(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大分五五め五七一〇)
(四) 態様 本件現場の車道上で加害車両が福雄を跳ねて死亡させたもの
2 責任原因
被告は、本件事故につき、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償責任を負担する。
3 相続
原告徐章雲及び原告徐章庸は福雄の子である。なお、福雄は、韓国国籍を有するので、法例二六条により本国である韓国相続法が適用される。
二 争点
損害
1 甲事件
原告壽﨑鶴美(以下「原告鶴美」という。)は福雄の内妻として以下の損害を主張する。
(一) 扶養請求権侵害 一二九八万四五九五円
(福雄の死亡逸失利益の二分の一に相当する金額)
(二) 慰謝料 一六〇〇万円
(三) 弁護士費用 二八〇万円
2 乙事件
原告徐章雲及び原告徐章庸の主張
(一) 福雄の死亡による損害
(1) 逸失利益 二五九六万九一九〇円
(2) 慰謝料 二四〇〇万円
右各損害を二分の一の割合で相続した。
(二) 固有の損害
(1) 慰謝料 各八〇〇万円
(2) 葬儀費用 一四七万二六七二円
(三) 弁護士費用 各三〇〇万円
第三争点(損害)に対する判断
一 原告鶴美と福雄の関係
証拠(甲二ないし五、七の1、2、八ないし一〇、一二ないし一七、一九、二〇、検甲一の1、2、二ないし四、乙八、証人李承和、原告鶴美、原告徐章雲)によれば、原告鶴美は、昭和六一年の夏ころ、福雄の友人である三浦承和こと李承和(以下「三浦」という。)の紹介で福雄と知り合つて意気投合し、その日から同原告の住居地において福雄と同居するようになり、本件事故に至るまで約九年間、事実上夫婦として暮らし(当初は原告鶴美の連れ子である幸子、明子と一緒に暮らしていたが、その後、同人らが家を出たため、二人暮らしとなつた)、原告鶴美が体調を崩し、仕事を辞めた平成三年ころからはもつぱら福雄の収入に頼つて生計を立てていたこと、福雄は、帰化して原告鶴美の戸籍に入ろうと準備していたが、手違いで帰化の手続ができず、内縁のままの関係にとどまつていたこと等が認められる。なお、被告は、福雄と前妻高初枝との離婚が成立した昭和六二年一二月までの間、原告鶴美と福雄に内縁関係があつたとしても、重婚的内縁であり、法的保護に値しない旨主張するが、前掲証拠によれば、右同居当初、すでに福雄と高初枝との婚姻関係は実質上破綻していたことが窺われる上、離婚後においても、約八年間事実上夫婦として暮らしていたこと等を考慮すれば、被告の右主張は採用できない。
二 福雄の死亡による逸失利益 二二二五万九三〇六円
福雄は、本件事故当時(五五歳)、株式会社第一化成工業所に勤務し、本件事故前年の平成六年には年収四〇二万五九一九円を得ていたことが認められるから(甲一一、乙二)、本件事故により就労可能年数である六七歳まで一二年間右収入程度を失つたことが認められ、また、福雄と原告鶴美は、本件事故当時、前記認定のとおり、福雄の収入で生計を立てながら事実上夫婦として二人暮らしていたことからすれば、生活費控除率を四〇パーセントとするのが相当であるから、以上を前提にしてホフマン式計算法で中間利息を控除して逸失利益を算定すると、以下のとおり二二二五万九三〇六円となる。
4,025,919×(1-0.4)×9.215=22,259,306
三 原告鶴美の損害
1 扶養請求権侵害の有無、その損害額 九〇〇万円
前記認定した原告鶴美と福雄の生活状況等を考慮すれば、原告鶴美は、本件事故当時、福雄の事実上の妻として福雄の扶養を受けていたのであるから、本件事故により扶養請求権を侵害されたことは明らかであるが、その生活実態、福雄が韓国国籍を有し、韓国の相続法が適用されること等を考慮すれば、原告鶴美の扶養請求権侵害による損害は、前記逸失利益の四割程度の九〇〇万円を認めるのが相当である。
2 慰謝料(主張額一六〇〇万円) 一〇〇〇万円
原告鶴美は、前記認定のとおり、本件事故当時、福雄と事実上夫婦として暮らしていたこと、本件事故は、被告が飲酒の上引き起こし、しかも、その後、被告が逃走したといういわゆるひき逃げ事案であること(甲二一の1ないし44)等の諸事情を勘案すれば、右慰謝料は一〇〇〇万円が相当である。
四 原告徐章雲及び原告徐章庸の損害
1 逸失利益 各六六二万九六五三円
原告徐章雲及び原告徐章庸は、前記二に認定の逸失利益二二二五万九三〇六円から前記三、1の原告鶴美の扶養請求権侵害による損害額九〇〇万円を控除した一三二五万九三〇六円を福雄の死亡による逸失利益として二分の一の割合で相続すると解するのが相当であるから、右原告らの右損害額は六六二万九六五三円となる。
2 慰謝料 一五〇〇万円(各七五〇万円)
前記認定した事故態様、原告徐章雲及び原告徐章庸が福雄の子であること等の諸事情を勘案すれば、福雄の死亡慰謝料は、右原告ら固有の慰謝料を含め一五〇〇万円を認めるのが相当である。
3 葬儀費用 〇円
原告徐章雲及び原告徐章庸は、葬儀費用等として一四七万二六七二円の支出を余儀なくされ、右同額の損害を被つたと主張するが、同原告らは右費用を福雄の勤務先である前記会社が負担し、自らが負担していないことを自認していることから、同原告らの右主張はその前提を欠き、理由がない。
五 以上によれば、原告鶴美の損害合計は一九〇〇万円、原告徐章雲及び原告徐章庸の各損害はそれぞれ一四一二万九六五三円となる。
六 弁護士費用
原告鶴美一九〇万円、原告徐章雲及び原告徐章庸各一四〇万円
本件事案の内容、認容額等一切の事情を考慮すると、原告鶴美につき、一九〇万円、原告徐章雲及び原告徐章庸につき、各一四〇万円が相当である。
七 以上によれば、原告鶴美の請求は、金二〇九〇万円及びこれに対する本件事故日である平成七年六月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告徐章雲及び原告徐章庸の各請求は、各金一五五二万九六五三円及びこれらに対する本件事故の翌日である平成七年六月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐々木信俊)